言語療法・言語聴覚療法とは?
対象となる障害、具体的な内容について紹介します
言語療法(言語聴覚療法)とは、話す、聞くなどの機能に障害のある子どもや成人に対して行われるリハビリテーションのひとつです。ここでは、言語療法が対象とする障害、具体的な指導、支援の内容や、言語療法を受けることのできる施設や費用について体験談を交えて詳しくご紹介します。
言語療法・言語聴覚療法とは?
言語療法とは、言葉を話したり聞いたりする機能に障害がある人に対して、日常生活を円滑に送るために行われるリハビリテーションのことです。言語療法は、英語ではspeech
and language therapyと表記され、しばしばSTと呼ばれています。言語療法が対象とするのは、言語機能の障害、話し言葉の障害ですが、食べたり飲み込んだりする嚥下(えんげ)機能の障害もリハビリの対象とされます。聞こえに関する障害のリハビリも行われる場合には、言語聴覚療法ともいわれます。
言語療法を受けられるのはどんな人? 言語療法が対象とするのは、言語障害、言語発達性遅滞(子どもの言葉の遅れ)、発音・発声に関する障害などがあります。言語療法ではこれらに対して検査を行いその結果から個々人にあったリハビリの計画を立てて、改善していきます。ここでは、言語療法が対象とする障害や状態には具体的にどのようなものがあるかを紹介します。
脳機能の障害による言語障害
言語障害とは、発語や発声や運動器官に問題がないものの、脳の言語機能・高次の認知機能の障害が起こることにより、聞いた言葉を理解できなかったり、言いたい言葉が口から出なくなってしまう障害のことです。主に以下のような疾病が関わっています。
■失語症失語症とは
「言葉の記憶喪失」のような状態であり、いったん獲得された言語知識が脳の損傷により失われてしまうことです。失語症では、言語中枢に障害が現れるため、話すことのほか、相手の言ったことを理解することにも障害が現れます。
■高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、見たり聞いたりしたことを把握し理解する脳の認知の機能の障害のことです。その結果、記憶や注意や認知において障害が起こります。例えば、注意力が削がれやすかったり、集中力が長く続かなかったり、新しいことを覚えられなかったりします。そのため言葉が出てこないのです。認知症や記憶障害なども、高次脳機能の障害のひとつです。
■発音・発声の障害
言語療法では、発音や発声に関する障害もリハビリの対象とします。声帯や舌、唇などを使う動作や、音を作り出す体の器官がうまく機能しないことにより起こります。これらの障害は、身体の部位が物理的に損傷を受けて起こる後天性のものと、先天性のものがあります。発声や発音の問題は、子どもの言葉の遅れに関わることもあります。■声の障害大きな声が出なかったり、かすれ声になってしまったります。
■発声の障害
例えば、「さかな」というところを「しゃかな」と言って、「さ」が「しゃ」という別の音に置き換わってしまったり、呂律(ろれつ)が回らなくなったり、音が省略される状態を指します。
■吃音(きつおん)の障害
同じ音を繰り返したり、言葉が円滑に出ずに詰まったりすることを指します。例えば、「みみみみかん」と同じ音を繰り返したり、「みーかん、」音が引き延ばされたり、「・・・・・みかん」など、言う言葉がとっさに出てこず、詰まったりします。
■嚥下(えんげ)、咀嚼(そしゃく)の障害
言語療法では、口腔の機能、つまり食べることに関する障害も改善できます。食べることに障害があると、食べ物が肺に入っておこる肺炎や食べ物による窒息など生命に危険を及ぼす可能性のほか、低栄養による体力・免疫力の低下が起こった結果、食べる喜びも失われます。また、言語聴覚療法の場合には、難聴などの「聞こえ」に関する疾病や障害のリハビリも行います。
言語療法は具体的にどんなことをするの?
言語療法は言語聴覚士を中心に行われる
言語療法は、主に専門家である言語聴覚士(ST/Speech-Language-Hearing Therapist)により行われます。言語聴覚士は、文部科学省または厚生労働省が指定する養成校で学び、言語聴覚士国家試験に合格している「話す」「聞く」「食べる」のリハビリに関するスペシャリストです。また、言語療法は、言語聴覚士を中心としながらも、医師・歯科医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療専門職、ケースワーカー・介護福祉士・介護支援専門員などの保健・福祉専門職、教師、心理専門職などと連携し、チームで連携しつつ行われます。
言語療法の種類
■個人の言語療法
専門家から1対1で直接、言語療法を受けることをいいます。個人のセッションの場合には、基本的に20~60分ほどの面接・訓練を、1週間~1ヶ月に1度行います。移動が困難な場合には、在宅によるリハビリテーションが行われることもあります。
■集団の言語療法
集団の言語療法とは、患者さんの社会性やコミュニケーション能力の向上を目的とします。似たような状況にいる人が集まることで助け合いながら治療を行うことができるとともに、他の人の意見を聞くことで客観的な視点を養うことができます。集団における言語療法は、歌を歌う能力を利用したり、体操をしたりしながら、言葉の出やすい身体づくりを目指します。
言語療法って具体的にどんなことをするの?
言語療法は、大きく分けて、発声、発話能力の獲得と、意思疎通を支えている高次脳機能の獲得を目指すという、2つのアプローチがあります。これらは、それぞれにリハビリの内容や注意点が異なります。
1. 発音や発声の機能の獲得
構音障害、発声に関する機能に障害がある人に対して、声を出すための基礎となる姿勢や呼吸を意識しながら、口の運動を通して、発声・発音の練習を行います。例えば、発声のために必要な姿勢についての指導や、全身の運動、深呼吸を行います。重度の障害の場合は、発声や発音の練習だけでなく、字を書いたり、50音表を指さしたりするなどコミュニケーションの補助手段も用いるようにします。
2. 言語をつかさどる脳の機能の獲得
脳は、言葉を理解したり言葉を発する指示を出すなど、他人とのコミュニケーションを支える大事な機能をつかさどっています。トレーニングの中では、本など一般に用いられる教材に加え、タブレット機器が用いられることもあります。
■失語症の場合
知能・心理検査によって、「聞く」「話す」「読む」「書く」のすべての言語的な検査、評価し、状態を分析します。そして、本人の状態に合わせてトレーニングのプログラムが組まれます。失語症のトレーニングの一例を以下に挙げます。
・耳で聞いたり、目で見せたりして、言葉の理解力を伸ばす練習
・絵や文字を見て、その言葉を言う練習
・日付・名前など、自分にとって身近なものを紙に書く練習
・言葉以外の方法でコミュニケーションをとる練習
■高次脳機能障害の場合
知能・心理検査によって、障害の状態や問題点を挙げ、本人の状態に合わせてトレーニングのプログラムが組まれます。高次脳機能障害トレーニングの一例を以下に挙げます。
・注意力を強化する練習・新しく体験したことを覚える力を伸ばする練習
・物事を計画し、順序立てて実行する力を伸ばす練習・疲れやすい、またはやる気が出ないなどの社会的行動障害に対する対応また、その他にも、家族に対する症状の説明、本人が社会生活を営むための家族への援助や、本人への心理的ケアなど様々な側面からも行われます。
言語療法を受けるためには?
言語療法はどこで受けることができるの?
言語療法を受けるためには、医師の診察および処方箋が必要な場合があります。まず、かかりつけの病院で症状や困りごとなどを相談した上で、言語療法が必要かどうか判断しましょう。日本言語聴覚士協会のホームページから、全国の施設検索が可能です。所在地や施設名や障害の種類で詳しく検索できるので、お住まいの近くの言語療法が受けられる施設を調べてみてはいかがでしょうか?また、自治体によっては言語聴覚士による療育や在宅訪問サービスなどを行っていることもありますので、福祉などの担当窓口で相談してみるとよいでしょう。
言語療法を受けられる施設
■医療機関
病気やけがの治療やリハビリが目的の場合、担当医から紹介・指示を受けることになります。この場合、健康保険が適用となります。また、子どもの場合も医師の診断・指示があれば医療機関で言語聴覚士の指導を受け、健康保険が適用となることもあります。病院のリハビリテーション科を訪れてみましょう。
■介護サービス機関
施設・地域によって異なりますので、各施設や自治体の定める手続きをとります。訪問リハビリテーションなど介護保険の適用になる場合もありますので、福祉窓口、ケースワーカーや民生委員に相談してもよいでしょう。
■言葉の教室など
民間が行っている言語に関する指導を行う教室です。その場合には、施設に直接申し込みを行います。
言語療法にかかる費用は?
■介護サービス機関の場合
当デイサービスなど介護サービス機関でリハビリの一環として言語療法を受ける場合、介護保険が適用されます(平成29年4月からは「日常生活支援総合事業」により、介護保険の要介護認定で要支援1または要支援2と認定された方または、基本チェックリストで生活機能の低下が認められた方(事業対象者といいます。)もサービスを受けることができます)。料金は事業所によって、また受ける回数や時間、サービスの内容によっても異なりますので、ご利用前に問い合わせることをおすすめします。
言語療法の体験談
言語療法について関心があるけれど、通うかどうかを迷っている方もおられるかもしれません。ここでは、実際に言語療法を行ったことのある方や、その保護者の体験談をご紹介します。
脳梗塞リハビリセンターで評価を受けた結果、失語症ということでした。軽度なのでなかなか周りが気づかないけれど、言葉がうまくしゃべれない、伝えたいことを頑張って言葉にするのだけど周りがうまく理解できない。文字がうまくかけない、短期記憶がうまくとどめられない、雑音などがイライラとしてしまうということでした。(中略)ちょっとした雑音なんかも気になるともう気になってダメだったんですけど、そういったことも少しずつ慣れてきたように思います。 先生からは、文字の書きやすさや記憶に関するところは少しずつ良くなったと言われています。(40代、男性、失語症) 言語療法を継続的に行っていくことで、言葉だけでなく、記憶についての機能の向上も期待できます。 初めての本格的なST指導に、お父さんは目を見張りました。「石川STは、その子がどこまで理解しているのか、何が足りないのか、ひとりひとりの状態を明確に把握している」と感じたからです。(中略)「ストローを吹く練習をしましょう」と教わったことも。「目的は口をすぼめた発音ができるようになることだったと思います。伸明は、意識的に息を吹くことができなかった。“ウーウー”になったり、“フ・ウ・フ・ウ”」と一語一語発声したりしていましたね。でもそういう練習をするといいだなんて、われわれには思いつかないですよ!」お母さんも、「“熱い食べ物をフーフーしましょう”とかね。そんなふうに生活の中で取り組めるヒントをくださる。それがさすがだと思いますし、親にはとてもありがたいんです」とおっしゃっています。
中川信子/著『発達障害とことばの相談 子どもの育ちを支える言語聴覚士のアプローチ』2009年/小学館/刊
まとめ
言語療法とは、日常生活を送る上で欠かせない言葉や聴覚、嚥下(えんげ)に障害のある子どもや成人に対して行われるリハビリテーションのひとつです。言葉を使って私たちは生活をしています。阻害されていた言葉や聞こえの問題を解決することは、単に言葉を話す、聞くことができるようになるという機能面の向上に留まらず、言葉を使って人とやりとりや、人とのふれあい通した安らぎというコミュニケーションをとることによる心の安定をもたらします。障害のある人が、思い通りに言葉によるコミュニケーションを通して人とやり取りを行い、自分らしい生活を送ることのできるように手助けを行うのが言語療法です。